下面照射型装置による微少量粉末試料の定量分析

蛍光X線分析アクセサリを用いた種々の試料の分析
下面照射型装置による微少量粉末試料の定量分析


何ができるのか?

下面照射型装置用の微少量試料容器(粉末、溶液共用)を作成しました。少量試料でも測定後そのまま回収することができます。

測定例

蛍光X線分析用耐火物標準試料(粘土質JRRM126~131)をこの容器を用いて加圧成型せずに粉末のまま測定(ルースパウダ法)し、従来法の塩化ビニルリング10mm径による加圧成型試料の検量線と比較しました。

・試料調整
a) ルースパウダ法
微少量試料容器にそれぞれ約50mg採取し、2~3回容器を軽くたたいて試料を容器に充填しました。試料容器の薄膜(分析窓)はNa,Mgなどの軽元素を分析するため長波長X線の透過率のよいポリプロピレンを使用しました。容器蓋(フィルタ)は、真空雰囲気の際に試料が容器外へ飛散しないようにするためのものです。

グラフイメージ

図1 下面照射用微少量 試料容器
b)加圧成型法
試料約1gを塩化ビニルリング10mm用につめて10KN(約10t)で加圧成型しました。

・測定条件
分析装置
: 下面照射型蛍光X線分析装置
分析元素
: Na, Mg, Al, Si, K, Ca, Ti, Mn, Fe, Zn
計数時間
: 軽元素 20sec  重元素 10sec.
試料マスク
: 10mmφ
測定雰囲気
: 真空

・測定結果および考察
検量線は全元素とも加圧成型した場合の方が試料密度が高いので、X線強度が強くなっています。軽元素ではおもにポリプロピレン膜による吸収の影響で強度は弱くなります。
Fe-Kα,Mn-Kαではポリプロピレン膜による吸収は少ないのでX線強度はほぼ同じです。Zr検量線はZr-KαがFe-KαよりX線波長は短いにもかかわらずルースパウダ法のX線強度は60%程度に低下しています。これは試料量の問題でZr-Kαの分析深さが50mg程度では不足であることを示しています。試料量を増加することによりZr-Kα強度は増加しますが、微少量分析の場合は試料量を一定にすることにより試料厚さをそろえることができます。
Al2O3,SiO2は加圧成型した試料でも検量線が作成できないほど測定点がばらついています。図2にみられるように加圧成型とルースパウダのX線強度は非常によい相関があり、測定点のばらつきは試料調製とは無関係であることを示しています。これは試料の性質、即ち、天然の鉱物にみられるように粒子の結晶性による問題およびマトリックス効果の問題であると考えられます。結晶性をなくすには試料を高温溶融してガラスビードにする必要があります。
表1の検量線の正確度はマトリックス補正を行っていない値です。加圧成型試料の方がややよい結果が得られました。今回の測定ではピーク強度のみを測定していますので、正確度を向上させるにはバックグラウンドを差し引く、計数時間を長くするなどが有効です。
また、試料が大量にあるときはルースパウダの場合でも今回のように微少量用試料容器ではなく大型の試料容器を用いた方が容易に高精度の分析ができます。

表1 微少量試料の検量線正確度   mass%
成 分 SiO2 Al2O3 Fe2O3 TiO2 MnO
含有率範囲 53~69 21~33 0.53~3.3 0.96~3.4 0.01~0.37
正確度(σd)  
ルースパウダ ----- ------ 0.092 0.040 0.008
加圧成型 ----- ------ 0.096 0.040 0.006
成 分 CaO MgO Na2O K2O ZrO2
含有率範囲 0.15~2.8 0.12~3.1 0.23~2.3 0.54~3.1 0.04~1.0
正確度(σd)  
ルースパウダ 0.040 0.10 0.080 0.062 0.008
加圧成型 0.040 0.081 0.069 0.095 0.008


グラフイメージ
図2 加圧成型とルースパウダのX線強度の相関