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リガクジャーナル

リガクジャーナル 2024年 4月 55巻 1号 通巻121号

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リガクジャーナル 2024年 4月 55巻 1号 通巻121号

小角散乱法を使った固体高分子形燃料電池向けPt/GDC 触媒の3 次元粒子充填構造解析

岩田 知之,表 和彦,柿沼 克

 

小角X線散乱(SAXS)と逆モンテカルロ(RMC)法を組合せナノ粒子の凝集構造を推定する方法(SAXS-RMCmodeling)を触媒に適用する方法を提案し,多孔質セリア(GDC)担体にPt ナノ粒子を担持した触媒(Pt/GDC触媒)の3 次元構造モデルを推定した.その過程で,SAXSパターンは,Pt 粒子とGDC粒子の体積比に対する感度が高いことが分かった.SAXS-RMC modeling におけるPt 粒子の体積率の最適化結果は,誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)のPt 担持量よりも遥かに小さく,ほとんどのPt 粒子が触媒内で均一に分布していないことを示唆していた.また,構造モデルから計算したPt 粒子の配位数はPt 担持量の増加とともに減少傾向で,透過型電子顕微鏡(TEM)写真と一致する結果であった.さらに,構造モデルに対して球形体積加重距離変換(LTT)を実行して得られた細孔径分布は,窒素ガス吸着等温線データをBarrett–Joyner–Halenda(BJH)法で解析した細孔径分布の結果と比較し,第一四分位数Q1 と中央値Q2 は概ね一致した.つまり,SAXS-RMC modelingは,TEM写真のような局所構造だけではなく,ガス吸着実験の細孔径分布の構造スケールを説明できるように,数ナノから数100 ナノメートルの広い構造スケールを1 つの3 次元構造モデルで再現できる非常に有用な解析方法である.本稿ではその解析手法の詳細について説明する.

X線・熱・電子線のコラボレーション分析が 切り拓く謎多きアセトアミノフェンの評価

山本 泰司,益田 泰明,佐藤 寛泰

 

複数の結晶多形をもつ医薬品原薬は,温度や湿度によって別の結晶多形に相転移し,結晶構造の違いが医薬品のバイオアベイラビリティや安全性に大きな影響を及ぼすことが知られている.100 年以上前から世界各国で様々な治療に使用されているアセトアミノフェンにも複数の結晶多形があることが報告されている.アセトアミノフェンの結晶多形には安定相と準安定相が存在するが,その結晶制御や評価手法,詳細な熱的挙動や結晶構造情報については詳細に知られていない.本稿では一般的な複数の評価手法とリガク独自技術を併せた『コラボレーション分析』をアセトアミノフェン結晶多形の結晶構造物性分析に適用した.その結果,コラボレーション分析によりアセトアミノフェンの熱的挙動と結晶構造が明らかとなったのでその詳細について記述する.

粉末X線回折法 基礎講座 第7回 格子定数

長尾 圭悟

 

粉末基礎講座第7 回では「格子定数」について述べる.格子定数はX線回折法における種々の解析で用いられる基本パラメータである.格子定数の算出法としては,1. 観測された回折ピーク1 本のミラー指数とBraggの式を用いてピーク位置から換算したd 値を用いて求める簡易的な方法,2. 複数の回折ピークを取得して個々の回折ピークの位置とミラー指数から最小二乗法で求める方法,3. 広範囲の回折パターンを取得してWPPF法(Whole PowderPattern Fitting)で求める方法の3 つがある.解析法2. 3. では角度標準物質を用いた角度補正が可能で,外部標準法と内部標準法があり,それぞれで長所・短所がある.WPPF法では角度標準物質を用いないピークシフトモデル関数による角度補正も可能である.温調アタッチメントを用いれば,試料の温度を変化させ,その場で回折パターンを取得するin-situ 測定も可能である.固体酸化物型燃料電池であるLSMO(Lanthanum Strontium Manganeseoxide)の高温測定では,格子定数の膨張の挙動がa軸とc軸で異なっていることが明らかになった.

波長分散小型蛍光X線分析装置Supermini200による 液体試料・粉体試料のヘリウムガスレス分析

岡﨑 なつ実

 

波長分散型蛍光X線分析では通常,試料を真空雰囲気下で測定するが,液体試料など真空雰囲気に投入できない試料はヘリウム雰囲気下での測定が必要となる.2024 年現在,世界的なヘリウムガス供給不足により,価格の高騰や長納期化が生じており,ヘリウムガスを用いた分析が困難になっている.従来,波長分散小型蛍光X線分析装置Supermini200 は試料室及び分光室を真空あるいはヘリウム雰囲気で測定していたが,試料室を大気,分光室を真空とする大気/真空雰囲気設定が選択可能となり,ヘリウムガスレスで固体・粉体・液体といったあらゆる形態の試料が測定可能となった.本稿ではSupermini200 の大気/真空雰囲気測定の特徴を示すとともに実際の分析事例を紹介する.

X線CTによる腎臓の微細構造観察

国島 直樹

 

リガクのnano3DXは実験室ベースの高分解能X線顕微鏡であり,観察試料のX線投影像をCT再構成することにより,非破壊的な立体構造観察を可能とする.我々は,実験室ベースX線顕微鏡の生体アプリケーションの一例として,X線CTによる腎臓の微細立体構造観察を試みた.重元素試薬で染色しシート状に樹脂包埋したマウス腎臓切片をnano3DXで観察した結果,腎臓の機能単位であるネフロンをミクロンレベルの空間分解能で立体表示することに成功した.さらに,独立した5 個のネフロンのCT画像について詳細な統計解析を行い,近位および遠位と呼ばれる異なる尿細管が重元素染色の輝度値により区別できることを示した.実験室ベースX線顕微鏡の今後の展開として,医療診断や構造生物学における活用が期待される.

TG-SPMEアタッチメント ―固相マイクロ抽出SPMEを使った簡易発生ガス分析―

 

熱重量- 示差熱分析(TG-DTA)は質量の増減と吸発熱反応が確認でき,この組み合わせで分解,燃焼などの反応をある程度推測することができます.次のステップとして反応によって生成する物質を調べたいという要望は必然であり,質量分析計(MS)やフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を付加して,反応生成物である発生ガスを定性・定量できる複合分析装置のTG-MSやTG-FTIR が発展し,弊社でもこれらの装置のラインアップを充実させてきました.

TG-MSやTG-FTIR は発生ガス分析の強力なツールである一方,TG-DTAとMSやFTIR 装置をトランスファーラインで接続する大掛かりな装置になることが多く,導入のための設置環境及びコストが障害になることがあります.またクロマトグラフィーのようにガスを分離して検出する機能はないため,複雑な発生ガスが予想されるポリマーや生体物質などの分解ではガスの定性が難しい場合があります.そこで今回,我々は簡便に発生ガス分析が可能なTG-SPME 法を提案し,それを実施するためにTG-DTAに付加するTGSPMEアタッチメントを販売開始しました.

Thermo Mass Photo キャピラリーインターフェースの製品紹介 ―コールドポイントを無くした新型インターフェースで 高沸点ガスの検出を実現―

 

熱分析は試料の物理的または化学的な熱変化をマクロに把握する手法として幅広い分野で用いられています.しかし,具体的にどのようなことが起きているのかといったミクロな情報を得るためには,他の手法と組み合わせた複合測定を行うことが必要となります.この複合分析の一手法が,示差熱天秤(TG-DTA)と質量分析法(MS)を組み合わせた示差熱天秤- 質量分析(TG-DTA-MS)法で,リガクではTG-DTA-MS 法の装置としてスキマーインターフェースを保有するThermoMass Photo(示差熱天秤- 光イオン化質量分析測定装置)を販売しております.

TG-DTA-MSは,TG-DTAの試料部より発生する気体をMSに精度良く導入するために,気体輸送のためのインターフェースが必要となります.代表的なインターフェースとして,キャピラリー型とスキマー型の二種類のインターフェースがあります.従来のキャピラリー型は両装置間を1 ~ 2 m の長さの細管(キャピラリー)で接続し,一定の温度で加熱する方式です.この方式は,キャピラリーと両装置間との接続部の温度を均一に加熱する必要があるのですが,経路に長い上,接続部が複雑になるためコールドポイントが発生し,高沸点ガスが滞留しやすくなります.一方スキマー型は,ジェットセパレーター原理に基づく差動排気部を熱分析装置の電気炉内部に組み込んだ方式です.この方式は,大気圧の試料部から発生したガスをおよそ160 mmという短い距離で真空雰囲気にあるMSチャンバーに導入する事が可能な構造なのですが,MS側の接続部は加熱が難しい構造な為,経路は短いですがキャピラリー方式と同じようにコールドポイントが存在してしまいます.今回,リガクではThermo Mass Photo の新しいインターフェースとして,コールドポイントが無いキャピラリーインターフェースの開発に成功し,高沸点のガスの検出が今まで以上に幅広くなりました.


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